「マレーシア」とは何か

Donna J. Amoroso

        

Cheah Boon Kheng
Malaysia: The Making of a Nation
[マレーシア: 国民の形成]
Singapore / ISEAS / 2002

Farish A. Noor
The Other Malaysia: Writings on Malaysia’s Subaltern History
[もうひとつのマレーシア:マレーシア・サバルタンの歴史]
Kuala Lumpur / Silverfishbooks / 2002 

Malaysia_making_nation改革運動(reformasi movement)とアンワル・イブラヒム裁判、政権政党UMNOの正統性喪失、イスラム主義者の世俗的開発主義国家に対する異議申し立ての拡大など、近年、マレーシアで起こっている事件が国民の物語に重要な「配置転換」をもたらし、国民国家の基礎と定義に再考を促している。ここでとりあげる2冊は、そのスタイル、目的、対象とする読者においては非常に異なるとしても、上に述べたことを主題とするものとして、これまで国家、あるいは学問上の実践を通じて作り上げられてきた強力な政治・社会上の言説に大いに関わりを持つものとなっている。

Cheah Boon Khengは選挙の政治、首相、国家政策に焦点を絞ることによって、実のところどのようにして国民が進化してきたのかを明らかにする。Cheahはマレーシアを「ギブ・アンド・テイク」のプリズムを通して分析し、マレー・ナショナリズムとより広い意味でのマレーシア・ナショナリズムとの間に存在する緊張について考察する。彼の議論の要点は、マレーシアの4人の首相はそれぞれ「最初は排他的なマレー・ナショナリストとして出発したものの、結局は包括的なマレーシア・ナショナリストとなった」というものである。(マレーシア)国民の歴史の中でこのことが4回おきたということ、これは国民国家がそれ自身の論理を発達させてきたことを示している。Ketuanan Melayu (マレー人の政治的優位)は定着しているが、この論理によって抑制されている。Cheahの本は、多文化的で寛容なマレーシア、という一つの現実を主張するものである。

other-MalaysiaFarish Noorの小論集はこれとは非常に異なった目的を持っている。それは、そうだったかもしれない、そしてこれからなるかもしれない国家を探し出すというものである。それは、「我々がたえず我々自身に語りかけてきた多民族のマレーシアという物語」によって傍らへ押しやられてきた「他のマレーシア」を探し出そうとする試みである。Cheahがマレー人コミュニティの内部に存在する派閥主義がたえずマレー人の優位を脅かしていることと述べているのに対して、Farishはマレーシアでは統一推進のために非常な努力が払われていること、これ自体に中心的な問題があると考える。つまり彼によればUMNOの「派閥主義」による害は、マレー人はパトロン的指導者がいなければ生き残ることが出来ないという考えそのものにあるのであり、同様にイスラム主義者がマレー文化を浅薄なモラル主義に単純化し、マレーの歴史の豊かさと複雑さを否定することを批判する。

Cheah Boon Khengのマレーシアは、コミュニティの内部、そしてコミュニティの間の差異を慎重に封じ込める。一方、Farish Noorはひとつのアイデンティティではなく、過去から救い出し、現在において正当化しようとする多様性のなかにマレーシアを見ている。

Donna J. Amoroso
(Translated by Onimaru Takeshi.)
Donna Amoroso edits the Kyoto Review of Southeast Asia.

Read the full unabridged version (in English) HERE

Kyoto Review of Southeast Asia. Issue 3:  Nations and Other Stories. March 2003

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