何百万もの市民が、電話やSMSによる巧妙な詐欺の被害を受けたオンライン詐欺のまん延により、タイ経済は2024年に600憶バーツもの膨大な損害を被った。タイ王国警察(RTP: The Royal Thai Police)は、2024年の第一四半期に、40万件をはるかに上回るオンライン詐欺事件を報告したが、これらは18憶9,000ドル以上の膨大な損失の主な原因だ。[1]また、GASA(世界詐欺対策アライアンス/ Global Anti-Scam Alliance)の2025年報告書から、調査対象のタイ人成人の72%が詐欺未遂に遭い、60%が過去12か月の間に詐欺に遭い、14%が一人あたり平均408ドルを損失したと判明した。[2] これらの重大な経済的損失を考慮し、当時のペートンターン・シナワット首相は、ターク県のタイとミャンマーの国境沿いで活動する詐欺拠点の大規模な取り締まりに着手した。これにより、ミャンマーで運営されていた違法コールセンターから、7,000人が救出された。なお、ミャンマーは、様々な詐欺行為を働く犯罪組織の安全な隠れ場所とされる3ヵ国の一つで、カンボジアやラオスと並ぶ国だ。[3]また、これらの取り締まりは、その後、80名以上のインドネシア国民と、94名の中国国民の本国送還の一因にもなった。[4]数年前から、これらの詐欺行為は何千もの人々を陥れ、台湾や、中国、香港、マカオ、ベトナムなどの被害者は各自の政府に対応を促している。[5] だが、法と秩序に関する、あらゆる駆け引きと国内政治をよそに、タイと周辺地域への非伝統的な安全保障上の脅威の最前線では、実質的成果がほとんど上がっていない。この小論文では、タイと、国境を挟んで隣接するミャンマー、カンボジアにも及ぶオンライン詐欺に関連した非伝統的な脅威の状況を分析する。以下の分析の要点は、より広範な東南アジアにおいて、法の支配の大幅な改善と、伝統的な安全保障の進歩が欠けているため、今後も、タイ国民と多くの外国人が機動的な犯罪ネットワークの犠牲になるという事だ。 抵抗は無駄ではない 2024年に、ペートンターンが失脚したセター・タウィーシンからタイ貢献党を引き継いだ時、サイバー犯罪・詐欺・国際犯罪との闘いは、10ある政治的優先事項の一つで、政府の議題の要だった。[6]さらに、モデルで役者の中国人がタイ領土から隣国ミャンマーに連れ去られた際[7]、パニックに陥り、慌てて正月休暇のタイ旅行を中止した1万人以上の中国国民の圧力が[8]、別の政策の見直しを促した。それらには、タイの2019年サイバーセキュリティ法(Cybersecurity Act)改正案[9]や、2022年のタイ王国デジタルプラットフォームサービス法(the Kingdom’s Digital Platform Service Law)に基づくデジタルプラットフォームの監視と消費者保護の強化などがある。[10]また、ペートンターンは近隣国との対話の改善に力を入れ、オンライン詐欺への対処に向けた協力や共同コミットメントを確約していた。[11]一方、中国国営メディアは、本国での恐怖感を和らげようと、ミャンマーの施設があった地域への電力供給停止後の詐欺事件の数の変化を即座に指摘し始めた。この報告によると、タイ国内でのサイバー犯罪の件数は、2月5日以降、約5週の間で20%低下したという。[12]その直後、タイは、テクノロジー犯罪の防止・抑制措置に関する勅令(Royal Decree on Measures for the Prevention and Suppression of Technology Crimes)の一部を改正し、金融機関に追加義務を課し、個人データの不正使用には刑事罰が科されるようにした。また、この改正では、被害者への補償の創設も試みられている。[13] だが、これらの法的努力が、問題の甚大さを抑制できる望みは薄い。まず、多くの場合、犯人は匿名で、顔が見えず、法の手がほとんど及ばない場所で活動する犯罪組織の一員だ。ほぼ無法地帯であるミャンマーのミャワディ地区では、2025年初頭の取り締まりをよそに、今なお、犯罪組織が活動している。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR: the UN Office of the […]