フィリピン人移民労働者、東南アジア域内の労働循環、そして海外移民プログラムの運営(とその失敗)

Odine de Guzman

         

ここ数十年、海外で働くフィリピン人労働者 (overseas Filipino workers:以下OFWs) はフィリピン社会と経済の中で重要な部門となった。彼らからの送金が歳入の重要な源泉となっているため、政府は以前はOCWs (overseas contract workers) と呼んでいたOFWsを国の新しいヒーロー (mga bagong bayani) と認定した。OFWという言葉には海外で働いているフィリピン人の様々な集団が含まれている。移民や、文書で契約を結んだ労働者もいればそうでない者もいる。統計上、彼らは移民でOFWsであると分類される。1999年の統計によれば移民は280万人でOFWsは420万人いることになっている。そして420万人の内、240万人が文書で契約されており、180万人がそうではない。そして、大半が男性である海で働く労働者と、女性の比率がますます高まっている陸で働く労働者というように、OFWsは統計上さらに細かく分類されている。進行しつつあるフィリピン人労働力の拡散の中で女性の比率がますます高まっていることと、政府が積極的に海外への労働力移動を促進していることに本稿は焦点を当てる。

海外に移住した労働者の運命はフィリピン人の国際移動の性質が変化しつつあることを示しているとメディアは報じている。統計から確実にいえるのは、ますます女性が移動の主流となり、志向する業種もサービス業が増加してきているということだ。フィリピン人の労働力移動も、ASEANというより大きな文脈の中で起きている労働循環の枠の中で生じている事象である。ASEANの中で職を求める人々は、ますます国境を越えて移民を受け入れかつ送り出している特定の国々へと渡っていく。注目すべきことは比較的発展が遅れている国から来たアジアの女性が、地域の中でより発展が進んでいる国のなかでみじめな家事活動をますます引き受けつつあるという傾向である。例えばフィリピン人やインドネシア人の女性労働者はより繁栄しているマレーシアの中で家事労働部門に携わっているのである。サービス産業の中での彼女たちの「価値」は平等でないにもかかわらず、搾取の経験は似たようなものである。中東諸国で働くフィリピン人とインドネシア人の女性家事労働者に、広範に見られるような虐待経験は同じように比較することが出来る。労働力輸出プログラムの様々な時点で、どちらの政府も虐待癖のある雇用者から彼女たちを守るべく、労働者の配置にモラトリアムを設定しようとしてきた。

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移民虐待問題の衝撃と女性の移動が増加し続けているということが国際社会の注意をひきつけることとなった。女性移民問題に対する国際的な関心は次の二つの形態をとった。1つは国際的な保護を促進することであり、もう1つは西洋諸国で女性移民の様々な側面についての研究がなされたことである。

国連加盟国の中で関係のある国は、国際レベルで移民の権利を保護する保証を作り出すべく抜け目なくロビー活動を行ってきた。国際労働移民に関する数少ない法的に拘束力を持つ文書の1つに、全移住労働者とその家族の権利保護に関する国際条約があるが、この条約が国連で1990年に採択されるまでに10年以上におよぶロビー活動が必要であった。学問の世界では、西洋に拠点をおく学者たちがフィリピン人移民がいかにして異境の生活で生じる感情的な負担を克服するのか、またどのような仕組みで彼らが毎日の「抵抗」を実践しているのかを研究している。たとえ散漫なものであろうとも、この研究はグローバル化が実生活に及ぼしている影響を分析するのに貢献するものである。

 Odine de Guzman

Translated by Onimaru Takeshi.
Kyoto Review of Southeast Asia. Issue 4 (October 2003). Regional Economic Integration