西マレシアの熱帯雨林は東南アジアの陸上生態系において生物多様性の中心にあたる。アメリカ大陸における生物多様性の中心に比べ、西マレシアの熱帯雨林はアクセスがしやすいため、多様性の創出、維持機構や、その生態系機能とのかかわりについて興味を持つ研究者にとって、好適な研究対象である。熱帯雨林の生態研究は、時代とともに移り変わってきた生態学の枠組みと深い関係をもっている。そのような枠組みとしては次のようなものがあげられる。環境と植生タイプおよび遷移過程の関係、種構成が維持される機構、生態系生態学(物質とエネルギーの流れ)、個体群生態学(各種の個体数の変動を決める要因)、進化生態学(生物がある行動様式や形態のセットをもっている歴史的理由)がそれらである。近年ではこれらを総合して生物多様性の創出、維持機構、および生物多様性と生態系機能とのかかわりについての研究が行われている。生物学の一分野としての生態学は、以上のような枠組みのもとで、理論の構築とその検証を繰り返してきた。同時にフィールド科学である生態学は、研究の対象となる地域を理解し、さらに可能なら地域を豊かに創造することにも貢献しなければならない。その貢献のあり方としては、例えば生態系生態学や、生物多様性と生態系機能の関係についての最近の研究のように、環境がどのような仕組みで維持されているかを理解するというものがまず考えられる。一方、我々の多くは伝統的社会が持つ生物との深い関係に基づいた豊かな文化を失ってしまったが、例えば進化生態学が与えてくれる興味深い生物に関する洞察は、新たな文化を創造する原動力でもある。このように文化を創造しながら生物との豊かな関係を再構築することも、生態学が地域に対して行うべき貢献のひとつである。
百瀬邦泰
Momose Kuniyasu
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Kyoto Review of Southeast Asia. Issue 2 (October 2002). Disaster and Rehabilitation