本論は、ベトナムのマングローブ林を対象に実施されている地域主導型資源管理の制度的潜在性に関する論考である。地域主導型資源管理は、国際的な注目を集め盛んに議論が行われているが、ベトナムで広範に実施されているわけではない。このシステムの目的は、国家組織や合作社、1980年以降は世帯レベルの集中的資源管理にある。本論では、国有化や私有化という観点からではなく、資源枯渇や乱獲という面から議論を進めたい。
ここでは事例として、ナムディン省ザオトゥイ県ザオラック村でのマングローブ林管理をとりあげる。植民地期を通じて、地域住民による資源利用は公的な規制がなかったにも関わらず持続性をもっていた。集団化が進んだ時代(1956-1975年)、県の行政府は堤防の保護という目的でマングローブ林を管理していた。地域住民はマングローブ林の使用を禁止されたため、資源へのアクセスは不正利用になってしまった。1980年代のドイモイ政策は経済機会を広げ、それがマングローブの破壊を引き起こした。資本や管理技術、政治力をもつ者は、マングローブ林から生み出される資源(特に養殖によるエビやカニ)から利益を得るようになった。貧困層の人々は、稲作以外の副業として重要な様々な資源を失い、ほとんど利益を得ることができなかった。ドイモイ政策の結果として、低収入層や寡婦世帯は特に村の中で取り残されることになった。
環境保護や生活向上に向けた外国のNGOによるプロジェクトですら、上述のような状況を生み出した。このプロジェクトは、村を囲むマングローブ林の再生を目的としていた。村では2005年のプロジェクト終了を控え、社会的平等や生産性、持続性を考慮した管理システムを考えねばならない状態にある。こうした問題への対案の一つとしては、資金不足にある既存の社会組織や貯蓄組合への資金供出を募ることである。もう少し大きな全体案としては、国家と個人、共同体がそれぞれ協調すること、すなわちザオラック村の場合だと、国家機関が堤防を、各世帯がエビ池を、共同体がエビ池の内側や周辺にあるマングローブ林を管理することである。
Le Thi Van Hue
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Kyoto Review of Southeast Asia. Issue 2 (October 2002). Disaster and Rehabilitation