共同体林とタイの地方社会

Fujita Wataru

        

Anan Ganjanapan
Local Control of Land and Forest: Cultural Dimensions of Resource Management in Northern Thailand
土地と森林の地方管理:北部タイにおける文化的資源管理
Chiang Mai / Regional Center for Social Science and Sustainable Development, Faculty of Social Sciences, Chiang Mai University / 2000

重富真一
タイ農村の開発と住民組織)
Tokyo / The Institute of Developing Economies / 1996 
English edition: Cooperation and Community in Rural Thailand: An Organizational Analysis of Participatory Rural Development
Tokyo / The Institute of Developing Economies / 1998

タイの持続可能な森林利用に関する議論では、王立森林局やNGO、地域社会それぞれの間で森林資源の最適な運営のあり方に対して相違がある。1990年代の初めに導入されたコミュニティ林法の法案に関する論議は未だ解決にいたってない。こうした意見の相違は、ジョン・エンブリーの言うタイ社会がもつ本質、すなわち二者間関係に根ざした「ルースな社会構造」によるものである。

重富真一によると、資本主義の浸透は、社会体制を分解するのではなく市場経済への適応を通じて二者間関係から集団的協同に変化するのを助長した。北部タイの村落は、労働交換集団、葬儀、貯蓄組合といった住民組織を発展させてきた。これらは、政府やNGOの主催するプログラムのもと、森林資源を管理する住民組織の形成を促した。重富によると、プログラムの成功は仏教寺院や守護霊儀礼など村で形成されていた既存組織が利用されたことに起因する。しかし、住民組織は経済的インセンティブにより形成されたもので、決して宗教によるものではなかった。

アナン・カンチャナパンの議論はこれと対照をなす。親族単位や共同体を基盤とする自己充足的農民社会は、資本主義の浸透や近代国家の法制度、所有権の法制化によって崩壊した。共有林を復元しようとする努力とは、共同体をとりもどして彼らの道徳的価値観を再生させることである。土地や森林、共同体における慣習法は、経済資源という視点からだけではなく地域における住民生活全般から考察されねばならない。天然資源の持続的利用は、地域住民の資源管理上の共有権を完全に理解することなく達成することはできない。

重富は伝統的な二者間関係から集団的協同への変化を、アナンは共有資源を長期にわたって管理する共同体を提示した。しかし、私はそうした共同体的伝統が衰えており、共同体は資源の管理を担うほど強くはないことを指摘したい。重富同様、私自身の調査でも、成功した共同体組織では、行為決定や紛争解決において農民を導くリーダーが存在した。共同体的連帯や二者間関係は双方ともに存在するのである。

また、行政官の存在が必ずしも紛争を引き起こしたわけではない。東北タイの森林行政官たちはNGO活動家や共同体のリーダーと共に、国家と地域の仲介者として森林管理の実施を担っていた。

藤田渡
Fujita Wataru is Junior Research Fellow at the Center for Southeast Asian Studies, Kyoto University. 

Read the unabridged version of this article in English HERE

Kyoto Review of Southeast Asia. Issue 2 (October 2002). Disaster and Rehabilitation

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