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同性愛:ベトナムとタイでの認可に向けた動き

同性愛を初めて認可する法律が制定されたのは、1979年のオランダで、これは家賃が設定されたアパートの借用権を、生き残っている同性パートナーにも拡大して認めるものであった。同性愛カップルの登録制度を設けた最初の法律は、1989年のデンマークで出現し、これは結婚と並行しつつも結婚を除く、一連の諸権利を許諾するものであった。結婚を同性愛カップルに解禁した最初の法律が制定されたのはオランダで、2001年のことであった。このオランダが先鋒となった同性結婚以降、アルゼンチン、ベルギー、ブラジル、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、アイスランド、ルクセンブルグ、メキシコ、ニュージーランド、ノルウェイ、ポルトガル、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、イギリス、ウルグアイ、それにアメリカ合衆国のほとんどの州がこれに倣った。アメリカが同性結婚の認可に、全国的に関与するかどうかの判決は、目下、アメリカ合衆国の最高裁判所で審議中である。

アジアでは、唯一、政府が同性愛を認可しているのは、現在のところ、香港、シンガポールとタイ(そしておそらく、その他のいくつかの区域)の入国業務においてであり、大使館や大学、あるいは企業に就労する外国人の同性パートナーたちが、この関係に基づく居住権を獲得できる。

世界の大部分では、同性結婚(あるいは同性愛の認可)の問題が、今や、レズビアンやゲイ、トランスジェンダーの人々の法的平等と人権にとって決定的な問題となっている。これは単純明快な要求であり、同性カップルへ肯定的イメージを与えるものであるが、今、メディアでは、同姓カップルが子育てをする親として度々描写されている。トランスジェンダーの人々も、今ではますます、性やジェンダーの問題を懸念することなく、自由に結婚ができるようになってきた。現在、西洋には同性結婚に関する幅広い文学作品が存在する。では、アジアでは何が起きているのだろうか。ここでは、ベトナムとタイにおける最近の動向を振り返ってみたい。

 

ベトナム

2012年にベトナム政府は、家族婚姻法の再検討プロセスに着手した。検討されていたのは、8つの個別の問題で、その中には異性同士の同棲、同性愛、代理母制度と別居も含まれていた。 1 2012年7月、法務大臣は、同性カップルたちの法的枠組みを検討すべき時であると述べ、このような改革に対する非常に実際的な理由を述べた。

法廷は、暮らしを共にする同性カップルの間の論争にどう対応するべきか分からずにいる。新法ができれば、同性カップルに資産や相続、養子縁組などの諸権利を与えることになるであろう。
「思うに、人権に関する限り、我々は、これを期に現実を見るべきである」、司法大臣のHa Hung Cuongは、火曜日(2013年7月24日)に、国営のテレビとラジオのオンライン・トーク番組でこのように述べた。「同性愛者の数は何十万という数に上っている。 2 これは小さな数字ではない。彼らは一緒に暮らしながら、婚姻届を出していないのだ。彼らが資産を所有していることもあるだろう。我々は当然、これらの問題を法的に処理しなくてはならない」。 3

5月、同省(法務省)は関係機関に諮問文書を送り、彼らの同性愛に対する意見を求めた。この文書は同性結婚について、人権の原則に照らせば不可癖なものであると述べていた。だが、また次のようにも述べられている。「同性愛のデリケートさや、同性結婚によって文化的、伝統的な家族の価値観にもたらされ得る、予測不可能な影響を考えると、ベトナムが同性結婚を合法化するには時期尚早である」。

法務省の代表らは、ハノイとホーチミン市でLGBTコミュニティとの対話を行い、LGBT団体とベトナムその他の国々の同性愛の専門家たちとの会議を企画し、同性愛についての市民教育を行うことを希望していると表明した。 4

国会の社会問題委員会は、2012年10月8日にLGBTの活動家たちを招き、同性結婚に関する発表を行わせた。

キース・ワールダイク(Kees Waaldijk)教授は、オランダのライデン大学の性的志向に関わる法の研究者で、M・V・リー・バジェット(M. V. Lee Badgett)教授は、アメリカ、マサチューセッツ大学アマースト校の経済学者である。ふたりは、2012年12月にハノイに招待され、同性カップルの恋愛と、結婚の拡大適用に関する認識の国際的な態様を論じた。両者とも、この問題については広範に書き記しており、ベトナム政府と国連開発計画共催のワークショップで講演を行った。

2013年4月には、保健省副大臣が意見を述べたが、その発言はタン・ニン(Thanh Nien)通信社によって次のように報じられている。「同性愛者たちにも、その他の誰もと同じ権利がある。それは愛する権利、愛される権利、そして結婚する権利である」。この数日前、法務省は同性カップルが(非合法な)「結婚」イベントを開いても、もはや罰金を科せられることはないと発表していた。 5

政府の法律改正案が公表されたのは、2013年の半ばで、資産や子供に関する結婚の権利と義務の適用を、同棲中の異性カップル、また独立した章では、同棲中の同性カップルにも拡大することになっていた。2013年10月17日には、30以上の社会組織の代表たち、さらに多数のLGBT個人たちと彼らの支持者たちが、ハノイでのセミナーに参加して、あらかじめ国会議員たちに送っていた3件の文書を公表した。これをある情報筋が次のように報告している。

「この文書には、社会団体の文書、ベトナムのレズビアン・ゲイの家族と友人の会(PFLAG)の文書、そして同性結婚を支持する人々8,300名の署名を集めた嘆願書が含まれていた。」 6

何百人もの人々が、ハノイの公園に集まって二人の同性カップルの象徴的な結婚を見守った。その公開されたお祝いには、多くの虹色の旗や風船が使われ、このカップルのFacebookページには60,000件もの「いいね!」が押されていた。 7

2013年12月に提出された一連の憲法改正には、結婚する権利の項への書き直しも含まれていた。「男性と女性」は結婚する権利を有する(この表現が結婚を異性カップルに限定するものと解釈されてきた)、という文言の代わりに、新たに提案された文言は、単純に「男性、女性」は結婚する権利を有する、と述べていた。ここで合法的な同性結婚の障害となり得るものは、きっぱりと取り除かれ、これに対するいかなる議論も注目も特には見受けられなかった。しかし、同性結婚への障害が取り除かれたとはいえ、それだけでは、同性同士の人々の結婚を実際に法制度化することにはならなかった。

2014年6月19日、ベトナム国会が政府から提案された多くの改革案を却下したことにより、同性カップルの同棲の法的認可は取り消された。さらに、異性カップルの同棲の認可は、子供に関する案件(資産に関する案件は外された)に限定された。代理母制度は、血縁(姉妹やいとこなど)との非商業的な取り決めのみに厳しく制限された。(非合法の)同性同士の「結婚」イベントを禁じた条項が取り除かれた一方、新たな文言が加えられ、それは次のように言明している。「国家は同性結婚を認めていない」と。

 

タイ

2012年、タイの同性愛の活動家として長いキャリアを持つナテー・テラロジャナポン(Natee Teerarojjanapongs)が、パートナーとの結婚許可証の法的登録を申請した。この許可証が拒否されたため、彼はこの件をタイ国家人権委員会に持ち込み、同委員会に憲法裁判所での手続きを開始するよう要求した。人権委員でLGBT問題を扱うタイリン・シリパニッチ(Tairjing Siripanich)博士は、訴状を受理し、次のように述べた。

「人権という観点からみれば、暮らしを共にするという決断は、その人がどのような性別であれ、法によって許可されるべきである。」 8

だが、裁判を進めるどころか、この問題はタイ国民議会の法務、正義と人権に関する委員会(Committee on Legal Affairs, Justice and Human Rights)によって取り上げられ、委員会は三名のLGBT団体の代表者たちを任命し、彼らに協力させた。本件をめぐり、同委員会は、5つの専門会議と公聴会を国内の各所で開いた後、2013年4月19日に、バンコクのタイ国会議事堂で最後に会合を開いた。委員会のメンバーで、各協議を踏まえた草案の作成を任じられた担当者はウィラート・カラヤシリ(Wirat Kalayasiri)で、彼はおそらく国民会議の当時の野党、民主党員の間でも有数の法律家であり、かつ民主党の法務関連の作業部会のトップでもあった。 9 起草に際し、ウィラートは法務省と共同した。

この成果となった法案は、結婚の権利と義務を「シビル・ユニオン」の登録制度を通じて同性カップルにまで拡大適用するというものであった。草案は、結婚のあらゆる権利と義務を、登録した同性カップルに準用すると述べている。シビル・ユニオン登録の有資格年齢は、20歳の選挙権年齢であり、あえて男女間の結婚が可能な法定年齢の17歳にはなっていない。子供の監護や面会、養子縁組に言及した条項は無かった。

しかし、このシビル・ユニオンの提議を承認する政党が皆無であったため、どうすれば、これが国民議会の議題に上がるのかという疑問が生じた。これを議題とするには、国民議会の現職議員20名が承認するか、あるいは、その代りに、市民イニシアティブとして議題にするために10,000名の署名が必要となる。2014年2月には、議会の解散と総選挙が行われたので、シビル・ユニオンの提議をめぐるロビー活動のプロセスも終わってしまった。しかし、2014年5月22日の軍事クーデターが、インラック・シナワトラ首相の政権を転覆させたことで、事態はまたも一変し、現在では任命された国民立法議会が設置されている。

クーデターの後、議会のシビル・ユニオン法案に批判的な市民社会勢力が、国家法改革委員会(the Law Reform Commission of Thailand)の協力のもと、代替案となる「同性結婚」法案の起草プロセスに着手した。この「市民の」草案は、登録と結婚の年齢が異性カップルも同性カップルも同じで、結婚にまつわる既存の権利と義務を一般的に触れるに留めるようなことはしていない。むしろ、子供に関する権利や、異性、同性、両者全てのカップルの様々な権利が明確に提示されている。タイの既存の結婚法は時代遅れなもので、男女不平等な条項がある。この法案に携わっている市民社会勢力は、既存法が新たなシビル・ユニオン登録制の基準や根拠として不適切であると考えた。というのも、この新しい制度の下では、単に同性カップルだけでなく、あらゆる個人に対して登録が開かれたものとなるからである。

2015年2月の現状では、この二つの代替法案はいずれも最終形態ではないし、クーデター後に任命された立法機関に回されてもいない。クーデターの指導者たちはLGBT問題に関心を示してはいないものの、敵意も示してはいない。同性愛者の雑誌、同性愛者のたまり場、市民社会の団体らは、軍が設置した政府の下で、制限なく機能しており、この政府は進行中の同性結婚に関する公開議論や討論会を阻止するための行動も起こしていない。むしろ、2015年3月には任命された政府よって、新たに男女平等法案が可決され、その中にはトランスジェンダーの人々の差別禁止と保護を含むものであった。

 

次なる動き?

目下、同性結婚のイニシアティブは、アジアの数か国において否決されているか行き詰まっている、あるいは、保留状態にある。それらの国々には、ネパール、台湾、日本、そしてベトナムとタイも含まれている。社会と政府が正面切ってこの問題に注目したことはアジアではこれまでなかった。同性カップルの結婚が、2001年にオランダで解禁されると共に、タブーではなくなった感があった。実際、他の多くの国々が、このオランダの先例に従っており、中には、ほぼ即時これに倣った国もあった。アジアのいずれかの国で、まもなく同性結婚の合法化への突破口が開かれるであろう。そして、この地域の他の国々もまた、この先陣に続くであろう

バンコク マヒドン大学 
Douglas Sanders教授

Issue 18, Kyoto Review of Southeast Asia, September 2015

Notes:

  1. Anna Leach, “Vote on same-sex marriage in Vietnam likely to be delayed until 2014”, GayStarNews, 20 February 2013.
  2. Note: Of course the numbers of homosexuals has not increased. What has changed is their visibility and an evolving public recognition of the realities of sex and gender diversity.
  3. Margie Mason, AP, “Unlikely Vietnam considers same-sex marriage”, Jakarta Post, 30 July 2012, p. 2.
  4. Sylvia Tan, “Will Vietnam become the first Asian nation to legalise same-sex marriage?”, fridae.com, 1 August 2012, www.fridae.com, accessed 6 August 2012.
  5. Anna Leach, “Vietnam government scraps gay wedding fines”, GayStarNews, 12 April 2013.
  6. 8,300 signatures for same-sex marriage in Vietnam”, Tuoi Tre News, 18 October 2013.
  7. Andrew Potts, “Hundred rally in Hanoi for same-sex marriage”, GayStarNews, 29 October 2013.
  8. Out in Thailand (magazine), November 2012, p. 16; Anna Leach, “Thai government drafting same-sex civil partnership law”, GayStarNews, 17 December 2012.
  9. In April 2014, Wirat was the party’s spokesperson on a constitutional court challenge to then prime minister Yingluck Shinawatra: “Rival parties dare judges to axe PM”, Bangkok Post, 15 April 2014, p. 1.
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